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福岡高等裁判所宮崎支部 平成4年(ネ)225号 判決

宮崎県都城市〈以下省略〉

控訴人

都北地区建設事業協同組合

右代表者代表理事

右訴訟代理人弁護士

佐藤安正

宮崎県都城市〈以下省略〉

被控訴人

東建設株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

冨永正一

主文

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  本件の事案の概要及び争点は、原判決の「事案の概要」、「争点」及び「争点に対する双方の主張」記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決2枚目裏10行目の「生コンクリート製造事業者」を「コンクリート事業者」に改め、同3枚目表9行目の「被告」の前に「控訴人の定款13条3号に定める」を加える。)。

三  争点に対する当裁判所の判断

1  証拠(甲1、2、4、5、9、15、17の1、2、18、20の2、21の1、2、23、24、25ないし27の各1、2、28の1ないし7、29の1ないし6、31ないし33、乙1、2の1、2、3ないし9、13、16ないし19、26の1、27、原審証人C、当審証人D、原審控訴人・被控訴人各代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  宮崎県都城市並びに同県北諸県郡三股町、山之口町、高城町、高崎町及び山田町の1市5町(以下「都北地区」という。)において、昭和56年から同59年にかけて、生コンクリートの購入価格は、大手の建築業者約30社とその余の約600余の中小零細業者との間に大きな隔たりがあり、そのため、同地区において、建築資材の価格は不安定で、市場は著しく混乱した状況にあった。特に、当時存在した都城市内の全コンクリート業者5社によって、昭和55年10月14日、都城地区生コンクリート協同組合(以下「訴外組合」という。)が設立された後は、生コンクリートは売手市場の傾向にあった。そのため、資材の利用者である建設業者の間に、昭和58年ころから、訴外組合と対等に交渉できる組合を設立し、その下に、建設資材の共同購買を行うことにより、大手の建築業者と中小零細業者が同等に、安定した適正価格で、建設資材の供給の確保を図ろうとの機運が盛り上がってきた。そこで、発起人において、右組合の設立のため、都北地区の建設業界のグループ別あるいは地域別に、繰り返し、説明会を開いて、組合設立の趣旨及び目的について理解を求めるなどした結果、組合を設立して、これに参加し、組合員として、積極的に、建設資材の共同購買事業を利用することにより、建設資材の単価の安定を確保し、相互に共存をしていくことについて、賛同を得るに至り、昭和58年11月、発起人会が作られ、その後、都北地区の多数の建設業者が組合員となって、昭和59年4月18日、中小企業等協同組合法3条にいう事業協同組合として控訴人が設立された。そして、控訴人の定款には、第1の事業目的として、実質的には、唯一、最大の事業目的として、「組合員のための建設資材の共同購買」が定められた。そのため、この点、各組合員においても、控訴人設立の目的の実現のため、控訴人の共同購買事業を利用すべきことを当然の認識として持っていた。

控訴人の設立当初の組合員は、146社であったが、順次増加し、平成2年末の時点で、都北地区に存する大小650余りの建設業者中、350余の業者が加入した。なお、その後も、組合員の増加の傾向が続いている。

控訴人の組織は、組合員の全員からなる総会、各地区から選出された総勢70名の総代からなる総代会、21名の理事、3名の監事からなっており、事業の執行に関し、理事会の諮問機関として、各種委員会が置かれている。

(二)  控訴人は、その設立後、生コンクリート及びコンクリート積ブロックの共同購買事業を行ってきたが、昭和60年7月1日、訴外組合との間に、控訴人が同組合から委託を受けて生コンクリートを継続的に販売することを内容とする委託販売契約を締結し、以後、これを更新してきた。右契約の下で、控訴人の組合員は、控訴人を通じて、訴外組合に必要な生コンクリートを発注し、訴外組合は売買代金を控訴人に請求し、控訴人は、これを発注した組合員ごとに請求し、集金して、訴外組合に支払う(ただし、当分の間、訴外組合が集金を代行する。)との仕組みがとられてきた。

(三)  共同購買による生コンクリートの販売価格は、毎年、控訴人の理事会内に設置された13名の委員からなる購買委員会が訴外組合との交渉に当たり、その結果をもとに理事会が決定して、訴外組合との間に覚書を取り交わし、最終的に総代会において承認されている。なお、購買委員会のメンバーは、控訴人の組合員のうち、コンクリート事業者を兼ねている者はすべて除外されている。

(四)  控訴人の組合員のうち、設立以来の組合員は設立以来、その後加入したものはそれ以来、都北地区内の工事につき、ほとんど例外なく(これまで、小規模の組合員1、2社において、少量の生コンクリートを共同購買事業によることなく、購入したことがあったが、控訴人役員が右事業の趣旨等を説明して理解を求めたところ、右組合員は、その後、専ら、共同購買事業を利用するに至った。)、共同購買事業を積極的に利用し、控訴人を通じて、生コンクリートを購入してきた。被控訴人は、都城市内に本店を有する建設業者で、公共工事の指名業者としてはAクラスに入る大手である。被控訴人は、控訴人の設立以来の組合員であり、かつ、総代であった(もっとも、被控訴人は、その後、本件除名前に総代を辞した。)。そのため、被控訴人は、控訴人の設立目的を十分に承知し、都北地区における工事については、専ら、控訴人を通じて、共同購買事業により、生コンクリートを購入してきた。なお、都北地区の建設業者のうち、約300社が控訴人に加入していないが、右業者は、訴外組合からも、生コンクリートを購入することが可能であり、現に購入している。

(五)  控訴人の組合員は、控訴人の共同購買事業によって、中小零細業者も、大手業者と同一価格で生コンクリートの供給を受けられるようになり、必要な時に注文どおり生コンクリートが現場に納入され、小口の注文にも、支障なく安定した供給を受けることができるようになった。また、控訴人と訴外組合との契約によって、平成2年7月1日から、従来訴外組合に依頼していた50立方メートルごとに行う品質検査の検査料が6000円から3000円に引き下げられ、また、1立方メートル以下の小口注文に対しては、1立方メートル当たり1000円の小口料金を取られていたが、これも廃止され、工場渡し価格の値引額は500円から1000円に引き上げられた。

控訴人は、訴外組合から1立方メートル当たり900円の購買手数料(委託販売契約上は、委託販売手数料とされている。)が支払われることになっており、この購買手数料は一旦控訴人のもとに入るが、控訴人事務費等の必要経費100円を控除した残額の800円が利用量に応じて、各組合員に還元配当されており、控訴人は、生コンクリートの購買事業によって格別の利益を得ていない。

(六)  ところが、被控訴人が平成2年10月上旬ころから北諸県郡高城町の工事について控訴人を介さずに、宮崎市内のコンクリート事業者である株式会社神生(以下「神生」という。)から大量の生コンクリートを購入しようとしたため、平成2年11月7日ころ、訴外組合から控訴人に対し契約違反ではないかとの申し入れがあり、控訴人役員は、そのころ、被控訴人代表者に対し、自粛をするよう申し入れて、せめて半分でも、控訴人の共同購買事業を利用して、生コンクリートを購入するよう説得したが、被控訴人代表者は、高速道路料金を支払って宮崎から高城町に搬入しても、なお、2000円も安いと公言して、これに従おうとはしなかった。そこで、控訴人は、平成2年12月14日、同月25日、平成3年1月8日と理事会を開き、被控訴人代表者を呼んで翻意を促し、その間、平成3年1月5日、控訴人代表者が被控訴人代表者に対し、同様の行為に及んだが、被控訴人はこれに応じようとはせず、これらの際、控訴人代表者は、除名などということは本意でないとして、被控訴人に対し、任意脱会を促したが、これも、被控訴人の受け入れるところではなかった。被控訴人は、結局、平成3年初めころまでに、共同購買事業によることなく、3000立方メートルの生コンクリートを神生から購入した。そこで、控訴人は、平成3年1月21日、規約に従い、臨時総代会を開催し、出席した総代67名に事件の経過と内容を告げ、被控訴人の除名について諮ったところ、右同日、除名について決議することになり、その結果、賛成63、反対4の圧倒的多数で、被控訴人が定款13条3号に定める「組合の事業を妨げた」として、被控訴人を除名する旨の決議が可決された。

(七)  控訴人と訴外組合との間で交わされた平成2年7月1日以降の1立方メートル当たりの生コンクリート価格は、被控訴人が主に使用するF210-15、F210-18(いずれも骨材25ミリメートル)についてみると、それぞれ1万2400円、1万2650円であり、90日以内の支払の場合は、それぞれ300円値引きされて、1万2100円、1万2350円となっている。これに対し、被控訴人が神生から購入した生コンクリートの価格は、宮崎市から高城町までの高速道路料金を含めても、F210-15が9950円、F210-18が1万0100円(いずれも、骨材20ミリメートル)であった。したがって、共同購買事業により、控訴人を通じて生コンクリートを購入した場合、前記のとおり、後に購買手数料のうちの800円が組合員に還元されるとしても、神生よりF210-15について1350円、F210-18について1450円の割高になっている。

なお、宮崎地区生コンクリート事業協同組合の販売する生コンクリートの価格は、F210-15が1万2650円、F210-18が1万2800円(いずれも、骨材20ミリメートル)とされ、請求書上も、右価格をもって算出されているが、実際の支払は、F210-15が9300円、F210-18が9400円に値引きされた価格でされており、また、宮崎市内の九州商事株式会社は、F210-15を8850円、F210-18を9300円(いずれも、骨材20ミリメートル)で販売している。

(八)  平成元年の控訴人の生コンクリートの全取扱量は約19万立方メートルであり、控訴人は、これにより約1億7600万円の購買手数料を得た。右年度において、控訴人が組合員に還元した配当金は、コンクリート積ブロック分を含め、1億7541万円で、その9割弱は生コンクリートによるものであるが、被控訴人に支払われた配当金は330万7000円であり、控訴人の組合員の中では特に金額の多い方である(当時の組合員総数192社中、上位6番目に位置する。)。被控訴人が神生から購入した3000立方メートルの生コンクリートは、平成元年度における控訴人の生コンクリートの全取扱量の約1.5789パーセントに相当するもので、1件の工事に使用する生コンクリートの量としては、極めて大量である。

(九)  被控訴人は、除名をする旨の決議がなされた後、平成3年1月24日、本訴を提起し、その申立てにより、平成3年8月23日、宮崎地方裁判所都城支部より、「控訴人は、被控訴人を控訴人の組合員として取り扱え。」との地位保全の仮処分決定を得たが、被控訴人は、その後も、控訴人を通じて、ごく少量の小口の注文しか行っておらず、まとまった量の生コンクリートは西部生コン株式会社、その他から、これを購入している。なお、被控訴人は、都北地区の建設業者としては、大手の部類に属し、その取扱量からみて、相対的に、他から安く、生コンクリートを仕入れることが可能な立場にある。

(十)  控訴人の組合員は、被控訴人も含め、これまで都北地区以外で工事を行う場合、控訴人の共同購買事業を通じて、訴外組合から生コンクリートを購入するのではなく、その地元のコンクリート事業者から生コンクリートを購入することもよくあった。これは、生コンクリートは、搬送自体に60分を要する限度の距離内でなければ、搬送の途中に、生コンクリートの質が低下するという性質があり、この点も、1つの理由となって、右のような実態が存するものであった。

2  以上の事実を認めることができる。

控訴人の定款13条3号が「組合の事業を妨げた」とき、当該組合員を除名することができるとしたのは、組合の構成員でありながら、組合の事業の執行を妨害し、その目的を否定するような行為に出た者に対し、その統制力に基づき、除名の制裁をもって対処することができるとしたものというべきであるが、中小企業等協同組合法による組合は、相互扶助の精神に基づき協同して事業を推進しようとする者の組織であって、何人も加入、脱退が自由である任意加入団体であることをその特質とするものであるから、右の「組合の事業を妨げた」ときというのも、しかく厳密に限定して解釈する理由はなく、直接的に組合の事業を妨げた場合のみならず、間接的にこれを妨げた場合も含むと解するのが相当である。

前記認定の控訴人の設立の経緯、その定款の目的等からみて、控訴人の共同購買事業は、控訴人の唯一、絶対的にして、具体的な事業目的であって、組合員がこれを積極的に利用することによってのみ、建設資材(生コンクリート)の安定した適正価格による供給の確保が可能となるもので、それを唯一、絶対の事業目的とする控訴人にとり、控訴人の組合員が右共同購買事業を利用することは、その維持、存立を図る上で、必要不可欠のものである。その意味において、控訴人の組合員となった以上、その義務として、共同購買事業を利用することが要請されるというべきである。逆にいえば、組合員は、控訴人の設立の経緯、その定款の目的にかんがみ、組合員たる者の協力義務として、積極的に共同購買事業を利用することを受容して、控訴人に加入したものということができる。このことは、控訴人の設立以来の組合員であると、その後加入した組合員であると、変わりがないというべきである。被控訴人は、控訴人の設立以来の組合員であって、一時、総代の1人でもあったことからも、控訴人設立の経緯、その目的等を熟知し、共同購買事業の利用が控訴人の維持、存立にとって不可欠のものであることを十分認識していたということができる。したがって、被控訴人が控訴人の共同購買事業を利用することなく、北諸県郡高城町の工事につき、神生から3000立方メートルもの大量の生コンクリートを購入したことは、その購入価格がダンピング価格であるか否かを問うまでもなく、明らかに、その義務に違反して、控訴人の事業目的を積極的に否定する行為に出たものであって(その意味において、被控訴人は、直接的に、控訴人の事業を妨げたということができる。)、被控訴人の右行為は、控訴人の定款13条3号の「組合の事業を妨げた」ときに該当するということができる(なお、前記のとおり、控訴人の組合員は、その義務として共同購買事業を利用すべきものであり、その意味において、実質的には、控訴人と各組合員との間には、専用契約(組合員が当該組合の施設を専ら利用すべき旨の契約)が成立しているともいうことができる(もっとも、控訴人は、控訴人と組合員との間に、専用契約が存しない旨を認めるが、その主張の全体の趣旨にかんがみるとき、それは、書面等により、右両者の間において、専用契約というべき契約を締結していないことを肯定するだけの趣旨であると解することができる。したがって、控訴人は、控訴人と組合員との間に、実質的に専用契約が締結されていることまでをも否定するものではないということができる。)が、この点、同じ協同組合にあっても、農業協同組合法19条1項、水産業協同組合法24条1項には、専用契約に関する規定が存するが、本件の中小企業等協同組合法には、かかる規定が存しないので、同法による組合については、専用契約を締結することにつき、格別の制約はないというべきである(なお、消費生活協同組合法においても、中小企業等協同組合法と同様専用契約に関する規定はないが、消費生活協同組合法による組合については、同法12条1項の規定の趣旨からみて、専用契約を締結できないと解すべきである。)。したがって、控訴人の組合員につき、前記のとおり共同購買事業の利用を強制することにつき、何らの障害もない。なお、独占禁止法24条本文が協同組合的性格を有する組合の行為には、原則的に同法の規定を適用しないこととしているのは、協同組合の相互扶助の精神を達成する上で、その目的との係わりにおいて、一定の拘束を認めることを肯認したものというべきであるから、前記のとおり、控訴人の組合員に共同購買事業の利用を強制しても、何ら不当ではない(もとより、この点の合意は私法上有効なものである。もっとも、独占禁止法24条ただし書によれば、「不公正な取引方法を用いる場合」と「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」には、例外的に、独占禁止法の規定が適用され、その行政上の規制を受けることとなるが、この場合とて、私法上直ちに無効といえないというべきところ、そもそも、本件にあっては、前記の拘束は、右のいずれの場合にも該当しないというべきである(控訴人の生コンクリートの共同購買事業は、都北地区における建設業者が一様に安定した適正価格で生コンクリートの供給を確保するためのものであって、その目的のみならず、制度的にも、価格につき、コンクリート事業者を除外した組合員をもって構成される購買委員会が交渉するなどの措置もとられているので、その価格が他地区のそれと異なるからといっても、必ずしも、適正を欠くというものではない。)。)。

したがって、被控訴人を除名するについては、正当な理由があるというべきであるので、平成3年1月21日開催の控訴人総代会においてなされた被控訴人を除名する旨の決議は、有効というべきである。

四  よって、被控訴人の本訴請求のうち、被控訴人を除名をする旨の決議が無効であることの確認を求める部分は理由がないので、これを棄却すべきところ、これを認容した原判決は失当で、本件控訴は理由があるので、原判決中の控訴人敗訴部分を取り消して、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 中路義彦 裁判官 郷俊介)

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